鳥取大学「医工連携プロジェクト」

工業用ドリルのテレビ放映をきっかけに医療用へ転用した「月光ドリル」の開発

■プロジェクトメンバー

鳥取大学
医学部 医学教育学講座 医学教育学分野 植木 賢 氏
医学部附属病院 新規医療研究推進センター 研究実用化部門 古賀 敦朗 氏
医学部附属病院 整形外科 准教授 榎田 誠 氏
株式会社ビック・ツール
代表取締役(当時) 新井 高一 氏
専務取締役(当時、現在は代表取締役社長) 新井 義一 氏
  • ドリルで骨を削る際に生じる摩擦熱によって細胞が壊死(タンパクの凝固変性)する
  • 医療機器登録
  • ドリルで骨を削る際に生じる摩擦熱によって細胞が壊死(タンパクの凝固変性)する
    →㈱ビック・ツールが保有するドリル刃の高い加工技術で、摩擦熱を最小化
  • 医療機器登録
    →鳥取大学がハブとなりPMDAの知見やネットワークを駆使した医療器登録申請を実施
OPENER
  • 鳥取大学医学部 医学教育学講座 医学教育学分野 植木 賢 氏(月光ドリルの医療機器転用の発案者)

■概要

新商品の開発には、課題認識の発見が重要である。
医療用「月光ドリル」開発のきっかけは、植木医師がテレビで紹介された㈱ビック・ツール(本社:鳥取県西伯郡)の工業用ドリルを見たことが全てのはじまりです。
従来、ドリルで骨を削る際、生じる摩擦熱によって細胞が壊死(タンパクの凝固変性)するという大きな壁に直面していました。
テレビで紹介された工業用「月光ドリル」は、独自の刃先の形状によって、切れ味や食付きが良く、切削抵抗を抑えることで生じる摩擦熱の発生も少ないという特徴がありました。
その特性を活かした医療機器への応用にビック・ツール社と協力して取り組んだ結果、AMEDの事業にも採択され、2015年に上市。またビック・ツール社においても、工業用ドリルから医療機器という新たなマーケットへの扉が開くきっかけとなり、同社売上全体の約10%にまで大きく成長しました。

インタビュー (植木氏・古賀氏)

工業用ドリルのテレビ放映をきっかけに医療用へ転用した「月光ドリル」の開発

工業用ドリルのテレビ放映をきっかけに医療用へ転用した「月光ドリル」の開発

2012年に鳥取大学病院が中心となり、地元企業の技術力と提携した医療機器開発によって地元に雇用を生み、病院内では全診療科を横断的につなぎ、外部との壁を扉へと変えるべく『新規医療研究推進センター』が設立されました。


植木医師は、医師であると同時に「ものづくり」にも非常に興味・関心が高く、専門外である工業見本市などにも積極的に出かけていました。そのような折、植木医師が観ていたテレビで「月光ドリル」が紹介されました。月光ドリルの特徴である「切れ味」、「食付き」を映像で見た瞬間に、「これだっ!」と直感。しかも、鳥取県内のメーカーだと知り、㈱ビック・ツールへ連絡し、同社の新井氏(代表取締役)と面談しました。


㈱ビック・ツールとしては、「月光ドリル」の医療機器という新しいマーケット参入を事業成長の機会ととらえ、社内に医療事業部を新設。鳥取大学と二人三脚で数えきれないほどの試作を繰り返しました。


1つ目の壁は、ターゲット以外の部位を損傷してしまう可能性があり、その加減の調整です。牛や豚の骨の切削試験において、刃の角度や形状など数十パターンの試作の結果、製品化に至りました。


㈱ビック・ツールは、医工連携プロジェクトの最初の成功事例になるだろうと確信し、学会などに月光ドリルのプレゼンテーションの場づくりを積極的に進めました。
ラスベガスの医学会の展示会に応募したところ、審査を通過し、はじめて展示会で医療用月光ドリルをお披露目しました。
この展示会が非常に好評を博し、国内外の学会から多くのお問い合わせをいただけるようになりました。


2つ目の壁は、医療機器登録です。登録には様々な臨床データが必要になるので鳥取大学の知見やネットワークを提供し、2014年にクラス2の医療機器として承認されました。


こうして㈱ビック・ツールの医療用「月光ドリル」は上市後、同社の売上にも寄与するほど大きく成長しました。2024年6月には、医療用ドリル専用の組み立て工場を増設する予定です。


医療用「月光ドリル」は、鳥取大学が目指す医工連携プロジェクトの成功事例の一つです。同プロジェクトによって、医療とは接点がなかった地元企業の技術が医療機器という分野で開花し、地元の雇用も創出する。まさに、既存マーケットという「壁」が視点を変えることで「扉」へと変わる好例です。