2007年頃に考案した「知財教育」は当初、大学の研究分野(大学教員としての仕事)として認められておらず、正式な授業ではなく課外活動として、消化器内科の後輩や研修医などを対象に「発明」の楽しさを啓発していました。今から思えば、それが「壁」だったと思います。潮目が変わったのが、2011年に文部科学省が、「知財教育」の重要性を大学における重点項目として掲げるようになってからです。このタイミングで、鳥取大学から文部科学省へ予算請求を行う書類に、「発明楽」の構想を盛り込んだところ、文部科学省に3年間の予算が承認されたことで「壁」が「扉」に変わりました。大学全体で「知財教育」がフォーカスされ、仕事として「発明楽」が鳥取大学の教育コンテンツとして本格的に推進する体制となり、その後の「共学講座」の開設へと繋がって行きます。
医療機器には始まりがあり、医療機器の数だけ開発者の熱い思いが込められています。また、製品化した場合、たとえその開発者がこの世を去っても医療機器は患者の診療に役立ち続けます。
目の前で困っている患者さんを救う診療と同様、医療機器は世界の患者さんに役立つ可能性があり、その開発に携わることができる幸せと楽しさ、難しさを伝え、医学の道に医療機器開発があることに気付いて欲しいと思っています。
鳥取大学病院では、病院のリソースと地元や企業のリソースを掛け合わせることで新しいイノベーションを起こさせる、という考えのもと、2012年に病院内に『新規医療研究推進センター』(旧次世代高度医療推進センター)が設立され、医工連携プロジェクトが本格的にスタートしました。同時に、医療機器開発に携わる企業の技術者を医療現場へ積極的に受け入れ、医療機関や大学の医療従事者との意見交換によって相互交流を図り、医療ニーズを満たす革新的な医療機器開発を目指すために「医療機器開発人材育成共学講座」もスタートしました。
講座では、下図の通り、「発心Ⅰ」→「発心Ⅱ」→「雲水Ⅰ」→「雲水Ⅱ」と医療機器への理解・促進から開発体験にいたるまでのプロセスを段階的に学んでいく講座です。
そして、医療機器開発で必要とされる柔軟な思考フレームワークのひとつとして、2012年から採用されている教育コンテンツ「発明楽」(たし算【常識を超える】、ひき算【常識にとらわれない】、かけ算【常識を変える】、わり算【常識をくつがえす】の発明)をコンテンツとした小中高校生を対象とした出前授業を2013年に開始しました。
授業では普段目にすることのない医療機器に実際に触れ、自分のアイデアが将来多くの人に役立つ可能性があることを実感できます。また、病院に小中高校生を招いて特別授業も行っております。
2019年には、鳥取大学病院とBSS山陰放送が主催する高校生を対象とした「発明楽コンテスト」をスタートし、昨年で4回目を迎えました。コンテストではテーマにそったアイデアを募集し、一次の書類審査を通過すると、二次審査では実際に審査員に対するプレゼンテーションを行います。その模様は山陰放送で番組放映しています。将来的には特許取得、企業による商品化へとつながる社会実装モデルを視野に入れたコンテストです。
このように、「発明楽」によって小中高校生、医学生の各々に対して「発見」→「発明」→「実践」のプロセスを判りやすく魅力的に伝え、彼等の中から世界初の医療機器が登場することを願っています。
「医療機器開発」には、開発資金、販売ルート・エリア・方法、ライセンスなど様々な「壁」が存在します。その「壁」を「扉」に変えるために、「発明楽」をベースに置きながら、企業人と医療人が共に交わり医療機器開発を行う「医療機器開発人材育成共学講座」、工学部から医療機器開発の人材を輩出するための「医工学プログラム」の新設、医学科大学院生が他学科や他大学の院生と共学する「未来医療創造コース」など、異分野・他領域との交流をキーワードとした教育プログラムを展開しています。
50年後の未来は、今の子どもたちが創造していきます。先人の築き上げたイノベーションを基盤に科学技術を何のために用いるのか、子どもにも優しく伝えられる教育プログラム(言語化)の作成に挑みます。
また、知の実践を通じて、企業と共に人に役立つ医療機器の創出を目指します。