鳥取大学「医工連携プロジェクト」

「医工学プログラム」の構築

■プロジェクトメンバー

鳥取大学
工学部 工学部長 坂口 裕樹 氏
工学部 工学部副学部長 岩井 儀雄 氏

工学部 機械物理系学科 田村 篤敬 氏
工学部 電気情報系学科 松永 忠雄 氏
工学部 化学バイオ系学科 伊福 伸介 氏

医学部 附属病院 原田 省 氏
医学部 医学教育学講座 医学教育学分野 植木 賢 氏
  • 工学部での理解
  • 工学部、医学部の両方にメリットのあるカリキュラムに仕上げること
  • 医学部のプログラムをどのレベルで工学部の学生に学ばせるか
  • 工学部での理解
    →「工学部長の想いで教授陣を説得」
  • 工学部、医学部の両方にメリットのあるカリキュラムに仕上げること 
    →「工学部の技術シーズを、医学部の困り事(ニーズ)と融合させるための双方のメリットをカリキュラムに導入:医工融合実践プロジェクト」
  • 医学部のプログラムをどのレベルで工学部の学生に学ばせるか
    →「工学部生にはエンジニアの観点から現場の問題を理解するというレベルが取得できるようにプログラムを設計」
OPENER
  • 鳥取大学 工学部 工学部長 坂口 裕樹 氏(工学部内のとりまとめ)
  • 『新規医療研究推進センター』(病院内のとりまとめ)

■概要

医学部と工学部の異分野融合で双方の技術に精通した研究者を育てることで継続的な人材育成により、最先端の医療機器・医療用材料・バイオ医薬品の開発を目指します。
鳥取大学工学部では、「病院で育てるエンジニア」をキャッチフレーズに、2023年4月より国立大学の工学部では中国地方初の新しい教育プログラム「医工学プログラム」を設置しました。
工学部の3学科(機械物理系学科・電気情報系学科・化学バイオ系学科)内にそれぞれ設置され、各学科で提供される工学分野の基礎知識や専門知識に加えて、医学部から提供される医学分野の知識も同時に学ぶことが出来ます。

インタビュー (松永氏)

「医工学プログラム」をスタートするにあたって、3つの「壁」がありました。
1つ目の「壁」は、工学部の理解が得られるかです。
坂口 工学部長は、「鳥取大学からイノベーターを生み出すための価値のある人材育成プログラムである」という強い意思で、自ら牽引役となって学部内を取りまとめて今回の導入が実現しました。

2つ目の「壁」は、工学部、医学部の両方にメリットのあるカリキュラムに仕上げることです。

3つ目の「壁」は、医学部の講義をどのレベルで工学部の学生が理解し、興味を持ってもらえる内容にするか、人材教育の観点でどのように論理だて、組み立てていくのかが課題です。


こうした「壁」を最終的に「扉」に変えることが出来たのは、鳥取大学医学部附属病院(以下、「鳥取大学病院」)の『新規医療研究推進センター』の役割が大きいと思います。同センターは、鳥取大学から医療機器のイノベーションを創出することを目的として2012年(2017年に現組織名へ改組)に鳥取大学病院内に設置された専門部隊です。

閉鎖的な病院を地域や企業、他学部などへ開放し、様々な悩みや相談を受けやすくする窓口としての役割を果たしています。これによって、様々な領域のニーズに合致した医療機器の研究・開発、さらにそれらを商品化し、上市させることが出来るようになり、現在まで、27品目の医療機器を製品化してきました。




同プログラムは、工学部の機械物理系学科、電気情報系学科、化学バイオ系学科の3学科で同時開講され、2年生から選択できるカリキュラムです。1つの学科で7名しか入れない非常に狭き門です(@7名×3学科=21名)。未だ正式なプログラム選択希望はかかっていないにもかかわらず、学生の間では、優秀な成績を収めないと同プログラムに進めないという認識があるようです。


カリキュラムは、『新規医療研究推進センター』が10年前から行っている「発明楽」「共学講座」の2軸がベースになっています。「共学講座」の交じり合いながら学ぶ、というコンセプトが医工学プログラムの考え方にも通じています。


自身の強み・武器などが明確ではない大学2年生に医工学プログラムを学ばせるには未だ早い、大学院生からのほうが妥当では、という意見もありますが、早期曝露がイノベーション創発の大きなフックになると考えています。一方で、工学の知識は十分に学んだ上で医工学の講義を受講するカリキュラム構成にしています。


さらに、大学院でもハイレベルの医工学を学べるようなカリキュラムも検討しています。最終的には、医工学を学んだ学生が、医療機器メーカーや地元企業、あるいは、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)のような認証団体などに就職し、人に役立つ医療機器の開発に携われる人材になって欲しいと考えます。そして、鳥取大学が中心となって、地元、企業、団体などと連携を図り山陰医療バレーを構築し、世界から注目される最先端の医療バレーとなることを目指します。


全国では、医工連携をテーマとしたプロジェクトがいくつも立ち上がっていますが、大企業や自治体が旗を振っているケースがほとんどです。鳥取大学の医工連携プロジェクトでは、鳥取大学病院がプロジェクトの中心に居ます。病院にある『新規医療研究推進センター』が、内外、他領域とのコミュニケーションハブとして機能しながら医療機器開発を行っています。約10年かけて構築してきたこうした土壌や実績があるからこそ医工学プログラムが完成したといえます。
イノベーションの影には必ず異分野交流があります。医学と工学、大学と企業、例えば、東大の宇治医師とオリンパスが交わることで、胃カメラが生まれたようにです。


医工学プログラムの目玉のカリキュラムが医工融合実践プロジェクトです。工学部の学生が、1泊2日で病院の現場を体験します。こうした実践を通じて医療現場の悩みを理解し、医療機器開発に興味を持ち、チャレンジできる環境や仕組みを提供していきたいと思っています。


医工学プログラムで学生に提供したい学びが2つあります。 1つは「成功体験」。自己効力感を育成することです。もう1つは「仕掛け学」。例えば、「小便器に的があるとそこに用を足す」や「ゴミ箱の上にバスケットボールのゴールがあるとゴミを拾ってそこに入れる」など、楽しみながら、工夫して学べる環境を整えたいと思っています。


医療現場において患者や医師が抱える問題を見出し、その解決には工学のスキルが必要であることを感じとって欲しいと思っています。
一方で、企業ニーズからすると、工学をしっかり学んだ学生が医療デバイスの知識も兼ね備えている点が、医療機器メーカーなどでは欲しい人材のようです。その意味では、鳥取大学の医工学プログラムは工学部の中に開設しているので、そうした人材育成が可能だと感じています。
将来的には、鳥取大学の強みであるロボット外科手術のスキルを会得する機会として活用していくのも良いかもしれません。神戸大学や長崎大学などでも医工学を学べるプログラム開発の動きがありますが、本学医工学プログラムの特徴は、大学全体を巻き込んだ動きになっていることだと考えております。この様に、鳥取大学では病院が中心となって動いたことにより「壁」を「扉」に変えたと言えます。