SUMMARY
サマリー
国立鳥取大学では、2023年4月、工学部に「医工学プログラム」を新設し、医療機器開発に向けた人材育成や地域、企業との連携をこれまで以上に強化していく予定です。鳥取大学が取り組んでまいりました「知財創造教育」そして「医工連携プロジェクト」にある様々な「壁」をどの様に「扉」に変えたかをまとめたFACTBOOKです。
■中国地方初!工学部に「医工学プログラム」を2023年4月に開設
2023年4月、鳥取大学工学部に中国地方の国立大学では初となる「医工学プログラム」を新設しました。
先端医療技術は、医療の領域を越え、異分野、特に工学分野の基礎知識や専門知識を加えることで新しいイノベーションを創発します。「医工学プログラム」のキャッチフレーズは「病院で育てるエンジニア」です。工学と医学の両方に精通し、先端医療機器や医療用材料、バイオ医薬品などを開発できる技術者、研究者を養成するのが大きな狙いで、3学科(機械物理系学科・電気情報系学科・化学バイオ系学科)が提供する工学分野の基礎知識、専門知識に加え、医学部が提供する医学分野の知識も学ぶことができます。
医工学は医療工学、医用生体工学、生体医工学などとも呼ばれ、中国地方の国立大学では、岡山大学が自然科学研究科、山口大学が創成科学研究科、広島大学が医歯薬学総合研究科、島根大学が総合理工学研究科といずれも大学院で学ぶようになっており、工学部内に設置するのは鳥取大学が初となります。
■2017年4月に鳥取大学医学部附属病院内にものづくり・臨床研究専門部隊として『新規医療研究推進センター』を開設し、医工連携プロジェクトのエンジンとして稼働
従来の医療機器開発は、病院と連携する企業との共同開発が多数を占めていました。その理由は、法律や制度の「壁」に加え、病院特有の閉鎖的な「壁」があったからです。優れた技術を持つ企業であっても、病院とのネットワークが無ければ医療現場のニーズをくみ取った提案や医療機器開発が難しい環境でした。
そこで鳥取大学医学部附属病院では、医療人・企業人が共に学び、交流しながら最先端の医療機器開発を行える人材育成プログラム「医療機器開発人材育成共学講座」を2014年にスタートしました。
また、ネットワークの構築を目的として企業に開放し、2017年4月、『新規医療研究推進センター』を開設いたしました。同センターは、2012年に設立された次世代高度医療推進センターを改組した組織で、ものづくりと臨床研究を推進する、病院内の40以上の全診療科を組織横断的につなぐ病院長直下の専門部隊です。開設以降、『新規医療研究推進センター』が中心となって医工連携プロジェクトを進め、2023年9月現在、27品目の医療機器の商品化を実現しました。
今後も、医工連携プロジェクトは、政府が示す「医療機器基本計画 第2期」の重点5分野を意識しながら、地元企業と連携し、雇用創出も視野にいれた活性化施策にも繋がる取り組みです。
【第2期 医療機器基本計画 重点5分野】
- 日常生活における健康無関心層の疾病予防、重症化予防に資する医療機器
- 予後改善につながる診断の一層の早期化に資する医療機器
- 臨床的なアウトカムの最大化に資する個別化医療に向けた診断と治療が一体化した医療機器
- 高齢者等の身体機能の補完・向上に関する医療機器
- 医療従事者の業務の効率化・負担軽減に資する医療機器
■医工連携プロジェクトの源泉は「知財創造」教育
鳥取大学医学部附属病院では、“人に役立つ喜び”を起点とし、主体的に行動する人財の育成を目指し、2012年、医学部医学科1年生の必修授業として医療機器開発を題材に「発明楽」と題した知財創造教育を開始しました。
医療機器の開発にあたっては、中長期的な視点で市場のニーズをキャッチ、分析、開発に伴う障壁と成り得る規制などを把握し、その解決に必要な専門的知見の収集などを計画的に行う必要があります。「発明楽」を中心とする知財教育を基盤に、鳥取大学では、医療機器の開発・研究において必要と独自に定義した9つの「PaRePiスキル」を身に付ける医工連携をテーマとした企業向けの「医療機器開発人材育成共学講座」を開設しております。こうした基礎教育が医工連携プロジェクトへと発展し、様々な「壁」を「扉」に変える原動力になっています。
【医工連携プロジェクト <実績>】
- 工業用ドリルがテレビ放映をきっかけに医療用ドリルへ転用した「月光ドリル」の開発
- 手技を定量評価できる次世代医療シミュレータ「mikoto大腸内視鏡モデル」の開発
- 逆転の発想 奥歯で噛む「Gaglessマウスピース」の開発
- パルプ射出成形品の医療関連用途への展開可能性に関する検討